『赤毛のアン』をはじめとするアン・シリーズは、プリンスエドワード島の美しい自然描写が大きな魅力のひとつです。特に、グリーンゲイブルズ周辺に咲く花の繊細な表現に魅せられた方も多いでしょう。アンが初めてプリンスエドワード島を訪れた6月は、林檎や桜の花がいっせいに咲き誇る美しい季節でしたね。

プリンスエドワード島は四季折々美しい花が咲き、日本では見かけない花も多いと聞いていたの楽しみにしていたのですが、私たちが訪れた時は花の時期には少し早く、チューリップも固いつぼみのままでした。

そこでアンの小説の中から花の描写をピックアップして楽しむことにしました。モンゴメリが描く美しい花の世界を愛でる”花めぐりの旅”、ご一緒にはいかがですか?

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プリンスエドワード島の春

『赤毛のアン』をはじめとするアン・シリーズは、プリンスエドワード島の美しい自然描写が大きな魅力のひとつです。アンが初めてプリンスエドワード島にやってきた6月は、林檎や桜の花がいっせいに咲き誇る最高の季節です。

雪が解け、すべてが目覚める春!プリンスエドワード島は、桜、りんご、タンポポ、水仙と、色とりどりの花が咲き始めます。

グリン・ゲイブルスにふたたび春がおとずれた。美しい、気まぐれな、しぶしぶやってくるカナダの春。四月から五月にかけて気持ちのよい、さわやかな日がつづき、夕日はピンクに雲を染め、ものみなが生きかえったようにすくすくとのびる。

赤毛のアン 第二十章

林檎の美しい並木道『 歓喜の白路 』

『赤毛のアン』の中で重要な花の1つが林檎の花。物語の冒頭でアンとマシュウが初めて出会い、グリーンゲーブルズに向かう時、花ざかりのりんご並木を馬車で通る場面が描かれています。その美しさに感動したアンは、歓喜の白路(the White Way of Delight)と名付けます。 アンが言うように、ただ並木路 (avenue)と言うよりも、歓喜の白路と呼ぶ方がひときわ輝き出すから不思議ですね。

「あそこを並木道なんて呼んじゃいけないわ。そんな名前には意味がないんですもの。(中略)『 歓喜の白路 』はどうかしら?詩的でとてもいい名前じゃない?場所でも人でも名前が気にいらないときはいつでも、あたしは新しい名前を考えだして、それを使うのよ」

赤毛のアン 第二章

ニューブリッジに人々が「並木道」と呼んでいるこの長さ四、五百ヤードで、何年か前に、ある風変わりな農夫が植えた巨大なりんごの木が、ぎっしりと枝々をさしかわして立ちならんでいた。頭上には香りたかい、雪のような花が長い天蓋のようにつづいていた。枝の下には紫色の薄暮が一面にたちこめ、はるかさきのほうに、寺院の通路のはずれにある大きなばら形窓のように、夕やけ空が輝いていた。

赤毛のアン 第二章

グリーンゲイブルズの桜

アンが初めてグリーンゲイブルズで朝をむかえる場面では、桜の花が登場します。窓からさんさんと降り注ぐ光を浴びて目を覚ましたアン。窓の外では”何かふわふわしたもの”がそよいでいます。一瞬、アンは自分がどこにいるのか思い出せませんが、”何か愉快な気分”がおとずれました。ところがすぐそのあと「あたしが男の子でないから、ここの人はあたしをいらないのだ」という悲しい現実に突き落とされます。

でも、窓の外は満開の桜!「なんて美しいんだろう」と6月の美しい朝に魅了され、「まあかりにいられるとしよう」と想像の余地に浸るのです。

グリーンゲイブルズの朝は、満開の桜の花だけではありません。新緑の美しい島には、春の花がいっせいに開いてアンを迎えてくれます。泣きつかれて眠ってしまっても元気になれたのは、もちろん持ち前の性格でもありますが、美しく花開いた花々も大きな力になったことでしょう。

すぐ外に立っている大きな桜の木は枝がすれすれになるくらい近かった。白い花がぎっしりと咲き、葉が見えないほどだった。家の両側は、一方はりんご、一方は桜の大きな果樹園になっており、これまた花ざかりだった。

赤毛のアン 第四章

アンの家のライラック

グリーンゲイブルズの庭

紫、白、ピンクと房状のかわいい花を咲かせるライラック。開花時期は 6月上旬~下旬。 グリーンゲイブルズの庭には、ライラックの大木が何本もあり、5月から6月にかけて美しい花を咲かせます。

花の下の草の中にはたんぽぽが一面に咲いていた。紫色の花をつけたライラックのむせかえるような甘い匂いが朝風にのって、下の庭から窓べにただよってきた。

赤毛のアンの舞台グリーンゲイブルズの庭には、今もライラックの大木が何本もあり、5月から6月にかけて美しい花を咲かせるそうです。私たちがプリンスエドワード島を訪れた時も5月だったのですが、例年になく寒い年で花の開花が遅れていました。もう一度訪れる機会があれば、まわりの美しさにうっとりしていたアンのように、ライラックの甘い香りに包まれてみたいです。

プリンスエドワード島は花の季節を外しても夢のように美しい島です。青く晴れわたった空、紫色の夢のような夕暮れ、そして漆黒の夜空に輝く星たち・・・。朝も昼も夜も、美しい島の光景がいつでも楽しませてくれるのです。

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プリンスエドワード島の夏

『樺の道』に咲くすずらんやスターフラワー

この森では光線がエメラルドのような葉の間を幾重にもくぐってさしこんでくるので、まるでダイヤモンドの心臓のように透きとおって映った。小径のへりにはほっそりとした若い樺が、幹には白く、しなやかな枝で、どこまでも立ちならんでいた。しだや星花やすずらんや真紅の草の実がずっとその径に沿って茂り、空気にはいつも快い香気がただよっていた。

赤毛のアン 第十五章

花ざかりのバーリー家の庭

プリンスエドワード島の短い夏。アンとダイアナの通学路『樺の道』には、可憐なすずらんやスターフラワーなどが咲いています。スターフラワーは木立の下にひっそりと咲く花で、『アンの愛情』では、「この夏はお化けの森にたくさん咲いているの」とアンがギルバートに語りかける場面があります。

色とりどりの美しい花が咲くグリーンゲイブルズ。でも、ダイアナの家のバーリー家の庭も負けてはいません。アンが初めてダイアナに会いに行く場面では、見わたす限り花ばかりの庭が美しく描かれています。「運命を決する、こんな重大なおりでないなら、アンは大いに楽しむところだった」と作者モンゴメリは書いています。

ばら色のブリーディング・ハーツ、真紅のすばらしく大輪の牡丹、白くかぐわしい水仙や、棘のある、やさしいスコッチ・ローズ、ピンクや青や白のおだまきや、よもぎや、リボン草や、はっかの茂み、きゃしゃな、白い羽根のような葉茎を見せているクローバーの花床、つんとすましかえったじゃこう草の上には、燃えるような緋色の花が真っ赤な槍をふるっている、といったぐあいで、この庭には日光もうすれるのを惜しんでいるようであり、蜂はのどかにうなり、風もたゆたいがちに、木々の梢をなでさすっていた。

赤毛のアン 第十二章

アンが最も好きな花 さんざし

さんざし(メイフラワー)はアンが大好きな花の一つで、アンの生まれ故郷ノヴァ・スコシア州の花でもあります。開花時期は5月上旬~中旬と聞いていたので、もしかしたら発見できるかも?と期待していたのですが、やはり見つかりませんでした。今ではめったにお目にかかれない貴重な花なので、もし見つけたら大きな幸運の印かもしれませんね。

赤毛のアンでは、『美しいものを美しい人に』と言って、フィリップス先生が愛するプリシー・アンドリュウスにさんざしを贈る場面が出てきます。ギルバートも、アンにさんざしを贈ろうとしますが、赤毛をからかわれ絶交していたアンは無視して、さんざしの花輪を帽子に飾り、女の子たちと『丘の上のわが家』を歌いながら歩きます。

「ほんとうに、さんざしなんてない国に住んでいる人がかわいそうだと思うわ」とアンは言った。「そういう人たちはなにかもっといいものを持っているかもしれないって、ダイアナは言うんだけれど、でもさんざしよりもっといいものなんてあるはずがないわ、ねえマリラ。」

赤毛のアン 第二十章

プリンスエドワード島の秋

プリンスエドワード島の木々が色鮮やかな黄金色に染まったら本格的な秋。恋人の小路も街道もよりいっそうその輝きを増します。『赤毛のアン』の中には、楓の枝を腕いっぱいにかかえて部屋に持ち込もうとするアンに、「ちらかるこったね」とマリラが小言を言う場面が出てきます。

グリン・ゲイブルスの十月はじつに美しかった。窪地の樺は日光のような黄金色に変わり、果樹園の裏手の楓はふかい真紅の色に、小径の桜は言いようもなく美しい濃い赤と青銅色の緑に染って、その下にひろがる畑をも照りはえさせていた。アンは自分をかこむ色彩の世界を思う存分に楽しんだ。

赤毛のアン 第十六章

プリンスエドワード島の冬

プリンスエドワード島の赤い道

プリンスエドワード島は樺太(サハリン)と同じ緯度にあるため、12月~3月までの平均気温は氷点下、凍えるような寒さです。でも、アンは厳しい冬の間も喜びを見つけて暮らします。

冬の森も、夏とおなじくらい美しいものね。真っ白で、静かで、まるで眠っていて、きれいな夢を見ているようね

赤毛のアン 第二十六章

色とりどりの花がいっせいに咲き誇る春、短い夏に咲く可憐な花、まるで一枚の絵のような黄金色の木々、そして夢のように白く輝く雪景色・・・。モンゴメリが描写するプリンスエドワード島の風景はどれも美しくうっとりしてしまいます。私たちがプリンスエドワード島を訪れた年は、寒さのせいで開花時期が遅れ 、5月中旬でもまだあまり花は咲いていませんでした。どんな季節も美しいプリンスエドワード島は、想像の余地がなくても十分楽しめますが、できるなら花ざかりの季節にもう一度訪ねてみたいと思っています。

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