「赤毛のアン」の魅力のひとつが、物語に登場する美味しそうなお菓子たち。当時はお茶会を開いてお客さまをもてなす習慣が根付いていたようで、お茶やお菓子にまつわるエピソードがたくさん出てきます。アヴォンリーのあちこちのお茶会でふるまわれる様々なお菓子を想像しながら、アンの世界を振り返ってみませんか。

赤毛のアンとお菓子のエピソード

「赤毛のアン」 にはお菓子にまつわるエピソードがたくさん登場します。例えば、アンがアラン牧師夫妻とのお茶会でふるまった痛み止め入りのレイヤーケーキや、「まったく崇高なものね」と絶賛するピクニックで初めて食べたアイスクリームなどどれも印象的なお話ばかりです。

それから「マシュウの野良仕事の手伝いに男の子がほしいんだから、女の子ではわたしらに何の役にもたたないんだよ」と言われたアンが絶望のどん底でぽつりぽつりとつつく野リンゴの砂糖づけ、「十人の友達に分けたら、一人にどのくらいずつわたるかしら」とダイアナが心配するお弁当のきいちごパイ、ギルバートが「にんじん」とからかったおわびにアンにプレゼントするピンクのハート型キャンディなど、様々なお菓子が出てきます。

そのほか、ダイアナと一緒にこさえているうちにかき回すのを忘れて焦がしてしまったタフィー、 ふたをするのを忘れたせいでねずみが入ってしまったプディング・ソース、男の子たちと一緒にベルさんのえぞ松の林で集める黄色いガムのかたまりなど、 ちょっとほろ苦いエピソードもあります。

そして、アンならではのエピソードは、お菓子作りの最中に空想にふけってしまうこと。想像の世界に入り込み、お菓子を作る時に粉を入れ忘れたり、かまどに入れたパイを真っ黒こげにしたり、失敗ばかりするアンは、そのたびにマリラに小言を言われてしまいます。

レイヤーケーキ、果物入りケーキ、さくらんぼの砂糖づけ、 クッキー、しょうが入りビスケット、タフィー 、ピンクのハート型キャンディ…。アンの物語に登場するお菓子は、どれも一度は食べたくなるものばかりです。

ダイアナとのお茶会

アンが初めてダイアナを招待するお茶会で起こった”いちご水事件”も有名です。「お茶に果物入りケーキやさくらんぼの砂糖づけを食べてもいいって(マリラが)言ったのよ」と大喜びしてお茶会の準備するのですが、葡萄酒をいちご水と間違えて出してしまい、ダイアナはべろんべろんに酔っぱらってしまいます。

ダイアナはコップになみなみとつぎ、その美しい赤い色を感心してながめてから、上品にすすった。「これはすごくおいしいいいいちご水ね、アン。私、いちご水ってこんなにおいしいものだと知らなかったわ」


『赤毛のアン第16章』(モンゴメリ 村岡花子訳 新潮文庫)

ダイアナが酔っぱらってしまったので、バーリー婦人(ダイアナのお母さん)はかんかんに怒り、アンに絶交を言い渡します。アンとダイアナは悲しみに暮れますが、その後、喉頭炎にかかったダイアナの妹ミニー・メイをアンが救ったことで誤解が解け、バーリー婦人は一番いいお茶道具でアンをもてなします。

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「バーリーの小母さんは、まるであたしがほんとうのお客様みたいに、いちばんいいお茶道具を出してくださったのよ、マリラ。なんともいえないスリルを感じたわ。(略)そうして果物入りケーキとパウンド・ケーキとドーナッツと二種類の砂糖づけを食べたのよ」


『赤毛のアン第18章』(モンゴメリ 村岡花子訳 新潮文庫)

レイヤーケーキとビスケット

レイヤーケーキとはうすいケーキの層の間にジャムやゼリーをはさんで、何段も重ねたもので、当時は6段重ねが多かったそうです。ある日、アンは アヴォンリーに新しく赴任したアラン牧師夫妻を自宅に招き、お茶会を開くことになります。マリラは大がかりな支度をし、アンははりきっておもてなし用のレイヤーケーキづくりに挑戦します。

うちの台所を見てごらんなさい。たいしたものよ。雛鳥のゼリー固めとコールド・タン(牛タン)も出るのよ。ゼリーが二種類、赤と黄色とね。それから泡立てクリームにレモン・パイにさくらんぼのパイ、それにクッキーが三いろに、果物入りケーキ。それとマリラのお得意のあんずの砂糖づけ…。それからパウンド・ケーキとレア―・ケーキと、さっき言ったビスケットね。それに新しいパンと古いパン。(略)おお、ダイアナ、(レイヤーケーキが)もしうまくできなかったら、どうしようかしら」


『赤毛のアン第21章』(モンゴメリ 村岡花子訳 新潮文庫)

当時のお茶会は招待状を出しておもてなしする本格的なものです。何日も前からお茶の準備をしたり、テーブルを花で飾り付けたり大忙し。ストーブに薪をくべて料理を作る時代なので、お湯を沸かすだけでも大変だったでしょうね。

お茶会の当日、アンはアラン牧師夫妻にバラやシダをふんだんに使ったテーブルの飾り付けをほめられますが、レイヤーケーキで大失敗!なんとレイヤーケーキに入れるはずのバニラの香料と痛み止めの塗り薬を間違えてしまったのです。口に入れたとたん何とも言えない妙な表情を浮かべるアラン夫人…。

「あれまあ、アン。あんたはこのお菓子の香料に痛みどめの塗り薬を使ったんだよ。先週、あたしが薬びんをこわしてしまったもんで、残りの薬を古いヴァニラのあきびんに移しておいたんだよ」


『赤毛のアン第21章』(モンゴメリ 村岡花子訳 新潮文庫)

憔悴しきったアンに「あのお菓子がうまいぐあいにいこうといくまいと、あたしはあなたの親切と心やりをありがたいと思っているのよ」と慰めるアラン夫人。優しい言葉に励まされたアンは気持ちを取り直し、塗り薬のお菓子事件という恐ろしいできごとがあったにしては、予想以上に楽しく過ごせたことに気づき、幸せな気持ちになります。そしてお客様が帰った後、「マリラ、明日がまだ何ひとつ失敗をしない新しい日だと思うとうれしくない?」とつぶやくのでした。

香料ちがいの騒動の後、「一人の人間がするまちがいには、限りがあるにちがいないわ」とアンがマリラに話す場面がありますが、やがてアンはその言葉どおりに成長し、お菓子作りも上手になり、その出来栄えはリンド夫人でさえも文句のつけようがありません。

レイチェル夫人とマリラがいい気持ちで客間にすわっている間に、アンはお茶を入れ、熱いビスケットをこしらえたが、そのビスケットがいかにもふんわりと、真っ白にできあがっていたのには、さすがのレイチェル夫人も感心したほどだった。


『赤毛のアン第30章』(モンゴメリ 村岡花子訳 新潮文庫)

「お料理には想像の余地がないので骨が折れる」と言って失敗ばかりしていたアンが、とびきりのお菓子を作れるようになったのは、マリラの特訓(!?)のおかげでしょうね。

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