『赤毛のアン』は物語の面白さだけでなく、19世紀の手作りや暮らしを知る楽しみもあります。当時の人たちはパッチワークや編み物など何でも手作りしていましたが、作者モンゴメリもその一人。プリンスエドワード島の銀の森屋敷にはモンゴメリお手製のパッチワークキルトが保存されています。今回は”つぎもの”に注目して物語に描かれる手仕事の様子を探ってみましょう。

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赤毛のアンの手作り

『赤毛のアン』にはパッチワークや編み物など手作りをする場面がよく登場します。一年の半分以上が冬という厳しい寒さのプリンスエドワード島で暮らすアヴォンリーの人たちは、長い冬を越すために、夏から温かく過ごすための準備を始めなければならなかったのでしょう。過酷な自然状況の中でいかに快適に過ごすかが、女性たちにとって腕の見せ所。自給自足の生活は大変だったと思いますが、それと同時に創意工夫する楽しみもあったのではないでしょうか。

「もうアンは帰ってきて、縫い物をする時間だのに」とマリラはちらっと時計をながめてから、外を見やった。暑さのために大自然のすべてが、まどろんでいる黄色い八月の午後だった。 13章

『赤毛のアン』(モンゴメリ著 村岡花子訳/新潮文庫)

あたたかい「さしこのふとん」や床に敷くみつあみマットなど、冬の寒さをしのぐために必要なものはたくさんあります。手作りの材料は、あまり毛糸や古くなった生地や毛布などを再利用していたそうです。アンの時代には当たり前だったリサイクル精神に触れることで、環境を大切にするsdgsの心に一歩近づくのかもしれません。

アンはトルコ人のように炉ばたの敷物の上で丸くなり、燃えさかる炎を見つめていた。楓の薪からは何百年もたくわえられた日光が輝きでているようだった。読んでいた本は床にすべり落ち、なかば開いた唇に微笑をうかべながらアンは夢を見ていた。

『赤毛のアン』(モンゴメリ著 村岡花子訳/新潮文庫)

身の回りにあるものを使って必需品を手作りすることは、長い冬を越すための生活の知恵ですが、もちろんそれだけではありません。あたたかい”マリラの敷物”のように、心の込もった手作りは、質素な生活の中に幸せをもたらす大切なものだったのです。

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アンのパッチワーク・キルト

モンゴメリの資料

アンはパッチワークが苦手だったようで、『赤毛のアン』には「つぎものにはちっとも想像の余地がないわ」と、赤や白の菱形の布をうずたかく積んだかごを前にして、ため息をつく様子が描かれています。小さな布きれをつなぎ合わせていく”つぎもの”(パッチワーク)は根気が必要ですものね。

そんなアンも大学時代に住んでいた「パティの家」では、編み物や縫い物などの手仕事を持ち寄り、居間のソファや揺り椅子に集まって楽しそうにおしゃべりしています。また、アンの結婚後を描いた『炉辺荘のアン』には、婦人会の集まりを開き、近所の人たちと「さしこのふとん」を楽しむエピソードも出てきます。

最初は”つぎもの”が苦手だったアンも、マリラやリンド夫人など手作りを楽しむ人たちに囲まれているうちに、手作りは単に実用的なものではなく、暮らしを彩る楽しみの1つと思えるようになったのでしょう。

モンゴメリのクレイジーキルト

モンゴメリのクレイジーキルト

アン独特の感性や美しいものを愛でる気持ちは、作者モンゴメリ自身のものだったのでしょう。銀の森屋敷にはモンゴメリが作ったクレイジーキルトという技法のパッチワークが保存されていますが、自由なパターンでつぎ合わせたその美しいパッチワーク・キルトには、みずみずしい感性と夢みる心があふれていました。

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アンがマリラに「詩を通して(世の中を)見たほうが素晴らしいじゃない?散文的にいってしまったら面白くないじゃない」と語る場面がありますが、アンが詩を通して周りを見つめたように、モンゴメリもまた独特の感性で暮らしを楽しんでいたのでしょう。それは、世界一美しい島プリンスエドワード島で育まれた類まれなるセンスだと言えるかもしれません。

『赤毛のアン』シリーズは物語を読むだけでも十分楽しめますが、モンゴメリが物語の中に散りばめた暮らしを楽しむコツを生活に取り入れることができたら、今まで以上に物語の魅力を実感できることでしょう。

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