
「赤毛のアン」のクリスマスと言えば、マシューがアンに贈るパフスリーブ(ふくらんだ袖)のドレス!女の子が大の苦手のマシューが悪戦苦闘しながら愛するアンのためにクリスマスプレゼントを用意する場面が印象的です。そんな心温まる物語を読み返しながら、アンの時代のクリスマスに思いを馳せてみませんか?
赤毛のアンのクリスマス

赤毛のアンのクリスマス・・・。12月のある寒い夕暮れ、グリーンゲイブルズではアンと同級生たちがクリスマス劇「妖精の女王」の練習に励んでいます。女の子たちが来ていることを知らずに帰宅したマシューは、薪箱の隅に腰をおろし、靴を脱ごうとしています。そこへ女の子たちがやってきたからさあ大変。女の子が大の苦手のマシューは、こそこそと部屋の隅に隠れてしまいます。
楽しそうにおしゃべりしているアンたちを、物陰からそっと見守るマシュー。その時、突然マシューはアンがどこかほかの女の子たちと違っていることに気づきます。女の子たちが帰った後も、そのことが頭から離れません。そして考えぬいたあげく、ようやくアンの洋服がほかの女の子たちと違っていることに気づいたのです。
幸か不幸か、洋服に流行などというものがあろうとはマシュウは知らなかったが、何にしてもアンのスリーブがほかの少女たちとはちがっていることだけは見てとった。
赤毛のアンの第25章「マシュウとふくらんだ袖」(村岡花子訳 新潮文庫)
みんな華やかな服を着ているのに、どうしてマリラはいつもアンにあんなに地味なかっこうをさせておくのだろう?それはそれでいいにちがいないが、一つぐらいきれいな服をこしらえてやってもわるいことはあるまい…。そう考えたマシューは、マリラには内緒で新しい服をこしらえてやろうと決心します。でも、マリラに話してみるわけにはいかない、きっと鼻先であざ笑うに違いないとマシューは思います。
クリスマスまで二週間。その翌日、さっそくマシューはカーモディの町へ服を買いに出かけるのですが、運が悪いことに女性店員に接客され、しどろもどろになってしまいます。結局、用件を言い出せず、熊手やら乾草の種やら黒砂糖やら余計な物ばかり買ってしまうのでした。
悩みぬいたマシューはアボンリー中でただひとり意見が聞けるレイチェル・リンド夫人を訪ねます。気のいいリンド夫人は、マシューの頼みごとを喜んで引き受けます。
「アンには上品な濃い茶色が似合うと思うんですよ。(中略)ようござんすとも。わたしがこしらえます。」
赤毛のアンの第25章「マシュウとふくらんだ袖」(村岡花子訳 新潮文庫)
「それから…そのう…わしは、そのう…袖を新流行でやっておもらい申したいんですが」
「ふくらますんでしょう、よござんす。ご心配にゃおよびませんですよ。最新流行の型に仕立てますからね」
それからの二週間というもの、一人でニヤニヤしているマシュー。マリラは何かあるなと勘ぐっていましたが、全く見当がつきません。そして、クリスマスイブの日、リンド夫人が新しい服を持ってきた時、ようやくマシューの計画に気づくのでした。
クリスマスの贈り物
クリスマスの朝、グリーンゲイブルズの外は真っ白な銀世界。「クリスマスおめでとう、マリラ!クリスマスおめでとう、マシュー小父さん!」マシューはおずおずと包みから服を取りだし差しだします。「これがお前へのクリスマスの贈り物だよ、アン」・・・。
それは、アンが憧れていたパフスリーブドレス!茶色のグロリア絹地の大きなふくらんだ袖が付いていました。感激のあまり、アンの目から涙があふれます。
「マシュー小父さん!こんなにすばらしいのってないわ。ああ、どんなにお礼を言っても、言いたりないわ。まあ、この袖を見てごらんなさい。あんまりうれしくて夢の中にいるようだわ」
赤毛のアンの第25章「マシュウとふくらんだ袖」(村岡花子訳 新潮文庫)
クリスマスのコンサート
クリスマスの夜、アンは同窓生たちと公会堂で行われるクリスマスコンサートに出演します。超満員の会場で、アンは詩の暗誦を見事にやってのけ、われるような拍手を浴びますが、本当はとても緊張していたのです。
「おお、あたし、すっかりあがっちゃったのよ。(中略)そのときにね、あのきれいな、ふくらんだスリーブのことを思い出したら勇気が出たのよ。あの袖のために、どうしてもやりぬかなくてはと思ったのよ、ダイアナ」
赤毛のアンの第25章「マシュウとふくらんだ袖」(村岡花子訳 新潮文庫)
ダイアナはアンの暗誦が素晴らしかったと賞賛した後、その時、アンが落とした髪飾りの薔薇をギルバートが拾って自分の胸ポケットにしまったのを見たと告げます。でも、アンは素っ気ない返事をするだけでした。
その夜、二十年ぶりに音楽会に出かけたマリラとマシューの喜びはひとしお。アンが寝た後も、アンの成長を誇らしく思う二人はしみじみと語り合います。
「そうさな、うちのアンはだれにも負けないほどに、やってのけたよ」とマシュウはじまんそうに言った。
赤毛のアンの第25章「マシュウとふくらんだ袖」(村岡花子訳 新潮文庫)
「そうですよ。あの子はりこう者ですよ、マシュウ」
マシューとマリラは、クリスマスコンサートの舞台で立派に成長した姿を見て感激します。その夜、もうすぐ十三歳になるアンの将来を二人で語り合い、クイーン学院に行かせてやらねばならないと思うのでした。
アンの時代のクリスマス
アンの時代のクリスマスは、大切な人に贈り物をしたり、公会堂でクリスマスコンサートを開いたりして楽しんでいたようです。でも、教会のミサに行く様子などは書かれていません。
赤毛のアンへの旅〜秘められた愛と謎(松本侑子 著)によれば、それはマシューとマリラが長老派の熱心な信者だったことが大きく影響しているようです。その昔、長老派教会はクリスマスを禁止していた歴史があったのです。グリーンゲイブルズの一家が信仰する長老派は、16世紀にクリスマスを禁止した歴史があり、「赤毛のアン」の背景となる19世紀末になっても、教会として積極的にクリスマスを祝うことはなかったのです。
「赤毛のアンへの旅」松本侑子(NHK出版)
「赤毛のアン」の作者モンゴメリ自身も長老派の家庭に育ち、子ども時代の日記にもクリスマスに特別なことをしたという記述はないそうです。長老派の教義が禁欲的だったと聞けば、アンに飾り気のない服を着せたり、パフスリーブドレスを虚栄だとして認めないマリラの気持ちもわかるような気がします。
現在では、長老派もクリスマスを禁止していないそうですが、少なくともアンの時代はごちそうを食べたりお酒を飲んだりする日ではなく、「大切な人に真心を贈る隣人愛の日」だったようです。
最後に
赤毛のアンのクリスマスエピソード、いかがでしたか?クリスマス・イブの朝、マシュウからふくらんだ袖のドレスを贈られ大感激するアンの姿は何度読んでも心温まる場面です。クリスマスは大切な人に思いを伝える素敵な習慣。アンの時代を振り返りながら、プレゼントの準備を始めるのもよさそうです。
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