赤毛のアンとターシャ・テューダーの作品はどちらも生きる喜びに満ちあふれ、「365日、この瞬間を楽しんで」という強いメッセージが伝わってきます。アンが暮らしたカナダ・プリンスエドワード島と、ターシャが暮らしたアメリカ・バーモント州はどちらも自然豊かな美しい場所で、ターシャは時代が変わっても19世紀初頭のライフスタイルを貫いていました。

小説『赤毛のアン』が出版されたのは1908年、ターシャはその7年後の1915年に誕生しましたが、色々調べている中で、アンの作者・モンゴメリとターシャの共通点も見つかりました。今回は二人の作品を紐解きながら人生を楽しむヒントを探ってみようと思います。

赤毛のアンとターシャ・テューダー

赤毛のアンとターシャ・テューダーの世界観はよく似ていると思いませんか?アメリカの絵本作家ターシャ・テューダーはガーデナーとしても有名な方ですが、バーモント州の山中にあるターシャの庭には美しい花や木が溢れ、赤毛のアンの舞台プリンスエドワード島と重なります。そして、1915年生まれのターシャは時代が変わっても19世紀初頭のライフスタイルを貫き、自給自足・手作りの暮らしを心から楽しんでいました。

『ターシャの生きる喜び365 人生は短い、この瞬間を楽しんで』は、ターシャの美しい庭と励ましの言葉がたっぷり詰まった宝物のような本で、ターシャの庭と暮らしを写真で堪能することができます。

ターシャの生きる喜び365 人生は短い、この瞬間を楽しんで

アンが暮らすプリンスエドワード島は「世界一美しい島」と称されていますが、「庭はわたしの自慢なの! 謙遜なんかしないわ。うちの庭は、地上の楽園よ」という言葉通りに、ターシャの庭も素晴らしい場所。56歳からターシャが一人でつくりあげたナチュラルガーデンは地上の楽園なのです。

カナダのプリンスエドワード島もアメリカのバーモント州も穏やかな日ばかりではありません。冬になると厳しい寒さが続きます。だからこそ、春の訪れは生きる喜びに満ち溢れています。

ターシャはよく、「3月の風と4月の雨の後には花咲く5月」と言っていたが、さすがに5月になれば気候も落ち着き、地面も青々とした草で覆われ、木の枝に小さな緑の芽が吹き始める。庭ではスイセンが風に揺れ、そのうちケマンソウが咲き、花木クラブアップルの白やピンクの花が満開になり、森ではブラックチェリーの花が咲き出す。牧草地では牛の放牧が始まる。冬の間、乾草しか食べられなかった牛達は、生の草が食べられて嬉しそうだった。この頃には地面も温かくなり、ターシャは喜んで裸足になった。

ターシャ・テューダーの子育て セス・テューダー (著), 食野 雅子 (翻訳)

”美しい、気まぐれな、しぶしぶやってくるカナダの春”とモンゴメリが描写しているように、プリンスエドワード島も春の訪れは遅いようです。それだけに春の喜びはひとしおです。

そして6月。ターシャが「輝きの季節」と呼んだ時期がやってくる。それから8月いっぱい、家のまわりでは、ターシャが植えた色とりどりの花が次々に咲いて、子ども心にもみごとだと思った。

ターシャ・テューダーの子育て セス・テューダー (著), 食野 雅子 (翻訳)

そして、6月はアンにとっても特別な季節。花ざかりの桜やりんごの花、むせかえるような甘い匂いのライラック、そして草一面に咲く可憐なたんぽぽ・・・。アンがグリーンゲイブルズに引き取られて初めて迎えた朝はまばゆいばかりに美しい6月でした。

また、アンは『輝く湖水』や『歓喜の白路』など色々なものに名前をつける名人ですが、ターシャも負けてはいません。家族で行く小さい谷川を「デル(小さい谷)」、川の手前のパインの森を「マジックウッズ(魔法の森)」、そして、湿地のそばの森を「サラマンダーの森」と名付けて楽しんでいます。

ただし、サラマンダーはニューイングランド特有のオレンジ色のイモリの仲間。さすがのアンもイモリを見たら悲鳴を上げてしまうかもしれません。でも、オークの巨木がある「マジックウッズ(魔法の森)」で開いていた子どもや犬たちの誕生パーティーにはきっと胸をときめかせたことでしょう。初めてアイスクリームを食べて7感激したピクニックのように。

喜びの泉ターシャ テューダーと言葉の花束

アンとターシャのお茶の時間

赤毛のアンにはよくお茶の時間が描かれていますが、ターシャも季節に関係なく、毎日同じ時間にお茶の時間を楽しんでいたそうです。夏なら4時半、冬なら4時に・・・。毎日1つ楽しいことを準備する習慣は「愉しみは創り出せるものよ」というターシャのメッセージそのものですね。

時間になるとターシャが縁に金属の透かし彫りがぐるりとついた木の盆を持ってキッチンから現れる。お盆には、ティーポット、お湯のポット、ミルク・ピッチャー、砂糖つぼ、人数分のティーセット、スプーンがきれいに並んでいて、必ず、ターシャ手作りのケーキかクッキー、薄いサンドイッチ、ローストチーズをクラッカーに載せたカナッペなどが載っていた。ターシャは一人ひとりのカップに紅茶を注ぎながら、「お砂糖は?クリームは?」と尋ねる。それに対してぼく達も礼儀正しく「お願いします」「結構です」などと答えた。

ターシャ・テューダーの子育て セス・テューダー (著), 食野 雅子 (翻訳)

子どもたちがかしこまった様子でお茶を楽しむエピソードを読むと、アンがダイアナを初めて招待した時のお茶会を思い出します。”二人の女の子はこれまで一度も会ったことのないあいだがらのように、まじめくさって握手”していましたよね。でも、アンの場合、そのティー・パーティーで悲劇『いちご水事件』が起こってしまいましたが・・・。それでも、終わり良ければ総て良し!アンは”過ぎ去った過去を忘却のマントに包む”ことにして辛い体験を乗り越えます。

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それから、お茶会と同じくらい楽しみなのがピクニック!アンにとってもターシャにとっても特別な一日です。

川へ行く日は、お昼前に、サンドイッチ、スタッフドエッグ、ピクルス、ケーキ、アイスティー、氷、スイカなどを用意する。サンドイッチは、ゆで卵をみじん切りにした卵サンド、ベーコンサンド、ジャムサンド、ピーナツバターとマシュマロのサンドイッチなどで、サンドイッチは油紙に包み、アイスティーは牛乳缶に入れる。また当時、木などの郵送用に詰め物をした封筒が出回り始めており、氷はそれに入れた。それらを手分けして持ち、家族みんなで、ペットの犬やカラスも一緒に、裸足で出発した。

ターシャ・テューダーの子育て セス・テューダー (著), 食野 雅子 (翻訳)

ターシャは、著書の中で、”子供は、のびのびとした楽しい子供時代を過ごし、その間に自分で感じ、考え、夢を見、決断し、実験する必要があるのです”と語っています。そして、”ちょっと周りを見回してごらんなさい。やろうと思えばできる楽しいことが、たくさんありますよ”と。大切なのはモノより心の充足!心に留めておきたい言葉です。

モンゴメリとターシャ・テューダー

また、『赤毛のアン』の作者モンゴメリとターシャ・テューダーにも共通点があります。赤毛のアンが世に出るまで長い時間がかかったことは有名ですが、ターシャの作品も同じような憂き目にあっています。例えば『ターシャ・テューダーの子育て』の「絵本作家・挿絵作家への道」という章にはこんなエピソードが書かれています。

10代後半から挿絵画家になりたいと思っていたターシャは、挿絵を描くための物語を自分で作り、絵を描いていました。そして、夫の勧めで、シルーヴィー・アン(あっ、ここにもアンが!)という女の子を主人公にした小さな物語絵本を持って出版社を訪ねます。ところが、ニューヨーク中の出版社から断られてしまいます。

夫から「出版社に持って行ってみたら?」と勧められ、ニューヨーク中の出版社を訪ねたものの、全部、断られてしまった。「そこであきらめないのが私」とは、本人の弁だ。手書き、手描きのページをきれいに綴じ、布を貼った表紙を付けた見本を持って再度、出版社を回りかけた時、オックスフォード大学出版局に新任の編集長がいて、「おもしろいわ。出版しましょう」と言ってくれたのだった。それが、ターシャの最初の絵本『パンプキン・ムーンシャイン』である。

ターシャ・テューダーの子育て セス・テューダー (著), 食野 雅子 (翻訳)

「パンプキンムーンシャイン」はターシャ・テューダーのデビュー作で、「キャラコブックス」と呼ばれているシリーズの中の1冊です。世界中で愛されている絵本がお蔵入りにならなくて本当に良かった!赤毛のアンもターシャの絵本も世に出る運命だったのです!でも、断られてもあきらめない力強さがあったからこそ、運命の神様は微笑んでくれたのではないでしょうか。

パンプキン・ムーンシャイン

アンもターシャもただ夢を見ているだけではありません。どんな時も前向きに行動する強さがあるからこそ、多くの人に共感されるのだと思います。

”人生は短いから、不幸になってる暇なんてないのよ”

これはターシャの名言ですが、ターシャやモンゴメリの作品には人生を楽しむヒントがいっぱい。ポジティブになれる魔法がたくさん詰まっています。本当に限られた時間を楽しい時間にするのは自分次第!悲しいことや辛いことがあっても、気持ちを明るい方向にシフトすれば、必ず乗り越えられます。

家事をしている時、あるいは納屋で仕事をしている時、これまでの過ちや失敗を思い出す時があります。そんな時は、考えるのを急いでやめて、スイレンの花を思い浮かべるの。スイレンはいつも、沈んだ気持ちを明るくしてくれます。思い浮かべるのは、ガチョウのひなでもいいんだけど

ターシャ・テューダーの子育て

92歳で亡くなるまで自分の好きな世界を貫いたターシャ・テューダー、そして、100年以上も読み継がれているアン・シリーズの原作者モンゴメリ。二人の女性が残した大切なメッセージは深いですね。

最後に

赤毛のアンとターシャ・テューダーの世界観は本当によく似ています。どちらも人生を楽しむヒントが詰まった作品だからこそ世界中で愛されているのでしょう。どんな時も力強く生きた二人の女性のメッセージが、100年後も受け継がれていくことを願っています。